3.ゼロ災運動理念3原則

 ゼロ災運動は、“ゼロ”、“先取り”、“参加”の3つの原則に立脚している。これを理念3原則という。

 
①ゼロの原則
 一人ひとりの人を人間として大切にするためには、いかなることがあっても、災害ゼロということが究極の目標となる。
現実には労働災害により、多くの人々が死亡し、ケガをしていることを考えると、それは理想であって、現実の目標とするのは無理だという反論もあるかもしれない。しかし、我が社では労働災害により、従業員が死亡しても、ケガをしても仕方がないなどと考えている経営者、従業員は決していないはずである。
 
 ところが、「労働災害や職業性疾病は、ある程度やむを得ない」という通念があり、この考え方が、安全衛生の徹底や改善を阻んできた面がある。安全衛生は、このような考え方から脱却して、労働災害は一切起こしてはいけない、職業性疾病などは絶対あってはならない、安全なくして生産なし、などの厳しい人間尊重の理念に立って推進されなければならない。これがゼロへの発想の転換であり、「ゼロの原則」の意味するところである。
                          
 そして、その始まりは1日ゼロ災、それを積み重ねて1月ゼロ災、1年ゼロ災となる。さらに、1年の労働日を250日と想定して定年まで約40年のゼロ災を願うのが1万日ゼロ災、1年365日で人生80年のゼロ災を願うのが3万日ゼロ災となる。 なお、労働災害は総じて減少の傾向にあり、労働災普を起こすことそのものが事業場の「恥」ともいえる時代を迎えつつある。したがって、現実にもゼロ災害の事業場は多数あり、ゼロの実現は名実ともに可能な時代になってきている。
 
 
②先取りの原則
ゼロ災運動における“先取り”とは
・究極の目標としてのゼロ災害・ゼロ疾病、さらに明るくいきいき とした職場を実現するために
・職場や作業にひそむ危険はもとより、働く一人ひとりの日常生活 にひそむすべての危険(問題)を行動する前に発見・把撞・解決 して
・事故・災害の発生を予防したり防止したりする
 
ことである。
 
 行動する前に危険を発見・把握して災害の芽を摘んで安全を確認し行動する。こうしたことは誰もが無意識にやっていることであり、KYTの原点をなす考え方でもある。
 先取りの原則ではハインリッヒの法則がよく引き合・いに出される。アメリカの損保会社の技師、H.W.ハインリッヒが過去に起こった労働災害事故(約50万件)の調査結果を1930年代に発表している。重傷災害が1件発生したとすると、その背後には軽傷災害が29件ある。さらにその背後には災害統計には現れないヒヤリ・ハットが300件あるといわれる。このヒヤリ・ハットとして水面下に止まっているのはたまたま遅が良かっ’ただけで、いつ何時重傷災害になっても一向におかしくない。
 そこで、この点に着目し、災害が起きてからそゴlに学ぶというのではなしに、先取りの原則でヒヤリ・ハット体験を調べて危険の要因をつぶしていくことが肝要となる。
 
 ゼロ災運動では、極微傷害でもヒヤリ・ハット体験でもそれを危険情緒として大切にし、職場や作業にひそむすべての危険を災害が発生する前に発見し、把接し、予知してその解決に努める。もしかしたら事故・災害になるかもしれないという潜在危険を予測し発掘する。それを解決するためにどうしたらよいかをチームやライン(職制)を通じ徹底的に追求する。このような「安全衛生の先取り」を徹底的に進め、潜在危険をみんなで横板的に発見し、把接して、みんなで解決するような“先取り的な職場風土”に変えていこうとするのがゼロ災運動である。
 
③参加の原則
ゼロ災運動における“参加”とは
・職場や作業にひそむ危険(問題)を発見・把捉・解決するために
・トップ、管理監督者、スタッフ、作業者が
・全員一致協力して、それぞれの立場・持場で、自主的自発的に
・ヤル気で問題解決行動を実域する
ことである。
 
 全員参加を旗印にしてゼロ災運動を展開する以上、まずトップや役員、それにスタッフやラインの長を加えた管理監督者側
 
の参加が求められる。
 ゼロ災運動は職場小集団だけの運動ではない。また、本来事業者の責任である安全衛生に対する責任を職場小集団に転嫁する運動でもない。
 働く人々の安全と健康の確保は事業者に課せられた当然の法的黄任であり、かつ通巻的責任でもある。その黄任を全うするため、会社が機械・設備の本質安全化をはじめ作業環境の安全衛生化を図り、安全衛生基準を守り作業標準などを整え、それを徹底するための安全衛生教育や監督指導を行うなど、安全衛生管理を推進することが基本的な大前提である。
 
 しかし、この“上からの安全衛生管理”を本格的に進めるためには、そのような会社側の施策に併せて、一人ひとりがヤル気で問題の解決に取り組むことが必要不可欠なのである。つまり、上からの管理に加えて、働く人々の自主性自発性を生かした職場自主活動を促進する取り組みが期待される。このことは、安全衛生のみでなく、作業改普・品質向上など、すべての職場の問題解決に共通することである。
 
 ゼロ災運動は、職場の問題解決行動である。いろいろな問題が前向きに全体として解決されていく「Pで安全衛生もよくなっていくし、またそのような職場であってはじめて企業に課せられている安全衛生の巽任が全うされるといえる。このような、明るく参加的・創造的な職場の雰囲気や人間関係一職場風土づくり一を目指すところに、ゼロ災運動の今日的な意義と課題がある。